それはお客様が美味しそうに麺をすすっている様子が目に入った時だ。一人で来店して一心不乱に食べ進めている人もいれば、カップルでこぼれそうな笑顔で見つめ合いながら食べていたり、思春期の男子は喋らず黙々と。お母さんとお父さんは小学低学年の娘さんと学校の話（たぶん）をしながら夕食を楽しんでいる。
老若男女、仕事中なのか帰宅途中なのか休日のひと時なのか、シチュエーションもそれぞれだ。1日のうちの貴重な一食をうちの店を選んで来てくれている。そして食を楽しむ時間を過ごしている。
20代30代の頃は口では従業員に向かって「来店してくれたお客様に感謝の気持ちを持て」と偉そうに言っていた。しかし本当のその価値には気付いていなかった。
今この瞬間、店内にいるお客様はうちを選んで席に座っている。当たり前だが、飲食店は店を開けて待つことしかできない。住宅や保険のようにお客様を探して営業して契約と言うわけにはいかない。来てもらえなければジ・エンドだ。
うちを選び、着席して、丼と正対して、笑顔をこぼし、お金を払って、ごちそうさまと会釈をして店を出る。
これがどれほど凄いことなのか、毎日毎日、何年もやっていると忘れがちなことだが、これは本当に凄いことなのだ。と、ふと思う。これが、私がやりがいや充実感を感じる瞬間だ。
